みちのく紀行文 #003
2008年09月07日
金色堂ってあれだよね。金閣寺より品がないよね。
なんて、国宝相手に腕組みしていっちょまえ批評なんてしてみる素人の二人の前に、仏頂面の給仕さんが現れた。
急にあたふたしだす二人。
言われるままに焼き肉屋のようなエプロンをさせられる。
少しだけ説明を受けておもむろに一杯目がおわんにぶん投げられた。
スイッチが入った。
この店に来る道すがら、限界に挑もうと固く心に誓っていたからだ。
一杯目を食べてみて、色々感想とか言いたいじゃない。
美味しいねとか、わんこそばって温かいんだねとか、言いたいじゃない。
「わーおいしいぃ!」と言いかけた矢先、説明し難いが、
『w』の時点で既に二杯目がアンドレアス・トルキルドセン(北京五輪、男子やり投げ金メダリスト〈90m57 五輪新〉)のような勢いでおわんにぶん投げられていて、お汁がそこらに飛び散り、給仕さんは三杯目をくるくるしていた。
シャケを狙う熊のような目つきで。
一瞬戦慄が走ったが、観光客を装ってへらへらしてみせる。
「ここのお店では最高何杯くらいいったんですか?」
「わんこそばってそもそも何で始まったんですか?」
「わんこそばってやっぱり花巻が元祖なんですか?平泉にもわんこそばってあったんですよね。」
「武田鉄矢さんもいらっしゃったんですか?」
給仕さんは答えない。
依然として三杯目をリズミカルにくるくるしている。
獲物を狙う獣の如き目つきで。
永遠かと思えるような息苦しい沈黙を破ったのは、意外にも給仕さんだった。
「話してるとお腹膨れちゃいますので。はい」
言葉を失ったが、成る程。
これは戦いなんだと気づいた。給仕さんと我々の戦争だったのだ。
その後、私とVさん、そして給仕さんは一言もしゃべらずに黙々とそばを食べては、そばをぶん投げ、お汁をそこらに飛び散らせた。
お汁で辺りがびしゃびしゃになって、ジーンズも程良くおそば臭くなった頃、
Vさんが蓋をしめた。
私と給仕さんの一騎打ちになった。
額の中で武田鉄矢が笑っている。
よく見ると大竹しのぶさんや、中村勘三郎さんの写真もあった。
でもその時は勘九郎さんだったかもなぁ、と、遠のく意識の中そんなどうでもいい事を考えた。
この給仕さんオアシズの大久保さんに似てるなぁとか。
そして
無意識のうちに蓋を閉めてしまった。
給仕さんはくるくるを止め、少しだけほくそ笑んだような顔でたっぷり準備していたおそばを片付け始めた。
負け戦だと思った。
私とVさんは完全に討ち取られた。
その場から一歩も動けなかったし、完全に気持ち悪くもなっていた。うぇ。
結果はVさん71杯。私は78杯。
目標は100杯と決めていた。自信もあった。でも結果は78杯。
余裕の給仕さんに虫の息で声をかける。
「武田鉄矢さんは何杯食べたんですか?」
「47杯です」
食い気味で言われたその言葉は私には「よく頑張ったね」と聞こえた。
ような気がした。
店内にあった『わんこそば全日本大会』のポスターを見ながら、
「優勝って何杯だったんですか?」と聞こうと思った矢先、
「優」ぐらいの時点で給仕さんはこう言った。
「241杯です。5分で」
打ちのめされた。花巻に。給仕さんに。わんこそばに。
会話でさえわんこそばのような給仕さん。
きっとさっきも「よく頑張ったね」なんて思ってないよな。
心の中で舌を出した。テヘ。テヘへ。
お汁で沼のようになった店内。
お汁を吸って重くなったジーンズ。
奥の厨房でわんこそばを作っている。
おわんという鉄砲にそばという弾丸を装填している。
その様子を見てみるべか、と思いVさんと厨房に目をやって。
お汁で海のようになった店内に私とVさんはひっくり返った。
びしゃーって。ばしゃーって。
そこには、件の三人娘の一人が居たからだ。
つづく
なんて、国宝相手に腕組みしていっちょまえ批評なんてしてみる素人の二人の前に、仏頂面の給仕さんが現れた。
急にあたふたしだす二人。
言われるままに焼き肉屋のようなエプロンをさせられる。
少しだけ説明を受けておもむろに一杯目がおわんにぶん投げられた。
スイッチが入った。
この店に来る道すがら、限界に挑もうと固く心に誓っていたからだ。
一杯目を食べてみて、色々感想とか言いたいじゃない。
美味しいねとか、わんこそばって温かいんだねとか、言いたいじゃない。
「わーおいしいぃ!」と言いかけた矢先、説明し難いが、
『w』の時点で既に二杯目がアンドレアス・トルキルドセン(北京五輪、男子やり投げ金メダリスト〈90m57 五輪新〉)のような勢いでおわんにぶん投げられていて、お汁がそこらに飛び散り、給仕さんは三杯目をくるくるしていた。
シャケを狙う熊のような目つきで。
一瞬戦慄が走ったが、観光客を装ってへらへらしてみせる。
「ここのお店では最高何杯くらいいったんですか?」
「わんこそばってそもそも何で始まったんですか?」
「わんこそばってやっぱり花巻が元祖なんですか?平泉にもわんこそばってあったんですよね。」
「武田鉄矢さんもいらっしゃったんですか?」
給仕さんは答えない。
依然として三杯目をリズミカルにくるくるしている。
獲物を狙う獣の如き目つきで。
永遠かと思えるような息苦しい沈黙を破ったのは、意外にも給仕さんだった。
「話してるとお腹膨れちゃいますので。はい」
言葉を失ったが、成る程。
これは戦いなんだと気づいた。給仕さんと我々の戦争だったのだ。
その後、私とVさん、そして給仕さんは一言もしゃべらずに黙々とそばを食べては、そばをぶん投げ、お汁をそこらに飛び散らせた。
お汁で辺りがびしゃびしゃになって、ジーンズも程良くおそば臭くなった頃、
Vさんが蓋をしめた。
私と給仕さんの一騎打ちになった。
額の中で武田鉄矢が笑っている。
よく見ると大竹しのぶさんや、中村勘三郎さんの写真もあった。
でもその時は勘九郎さんだったかもなぁ、と、遠のく意識の中そんなどうでもいい事を考えた。
この給仕さんオアシズの大久保さんに似てるなぁとか。
そして
無意識のうちに蓋を閉めてしまった。
給仕さんはくるくるを止め、少しだけほくそ笑んだような顔でたっぷり準備していたおそばを片付け始めた。
負け戦だと思った。
私とVさんは完全に討ち取られた。
その場から一歩も動けなかったし、完全に気持ち悪くもなっていた。うぇ。
結果はVさん71杯。私は78杯。
目標は100杯と決めていた。自信もあった。でも結果は78杯。
余裕の給仕さんに虫の息で声をかける。
「武田鉄矢さんは何杯食べたんですか?」
「47杯です」
食い気味で言われたその言葉は私には「よく頑張ったね」と聞こえた。
ような気がした。
店内にあった『わんこそば全日本大会』のポスターを見ながら、
「優勝って何杯だったんですか?」と聞こうと思った矢先、
「優」ぐらいの時点で給仕さんはこう言った。
「241杯です。5分で」
打ちのめされた。花巻に。給仕さんに。わんこそばに。
会話でさえわんこそばのような給仕さん。
きっとさっきも「よく頑張ったね」なんて思ってないよな。
心の中で舌を出した。テヘ。テヘへ。
お汁で沼のようになった店内。
お汁を吸って重くなったジーンズ。
奥の厨房でわんこそばを作っている。
おわんという鉄砲にそばという弾丸を装填している。
その様子を見てみるべか、と思いVさんと厨房に目をやって。
お汁で海のようになった店内に私とVさんはひっくり返った。
びしゃーって。ばしゃーって。
そこには、件の三人娘の一人が居たからだ。
つづく
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